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雑誌掲載 ○住まいづくりを考える

2005年11月から2006年2月まで
新建ハウジング+1に執筆した内容の一部です

 

「売る」から「つくる」を考える

 

量の充足より、質の向上が求められる現代。住宅分野も、効率化によって利潤を追求する大量供給型の住まいづくりが、個々の質を追求する住まいづくりへと転換している。
そのなかで、設計事務所や工務店は、どのような提案をしていけば個々のエンドユーザーの要求に応え、満足を引き出せるのだろうか。私は、設計事務所や工務店自身が、その提案能力を十分に発揮できない状態を、自らつくり上げてはいるのではないかと感じる。
まず、提案手法から見直してみてはどうかとススメたい。プレゼンテーションにおいて、エンドユーザーは、自分たちのライフスタイルに即した提案を望んでくる。ライフスタイルとは、その人なりの生活の様式だ。
私は、最初のプレゼンをパソコンによる機械的な提案書で行うことがすでに、マイナス要因だと思う。つくり手側はパソコンを使うことで時間とコストを低減でき、多数のエンドユーザーに提案できるメリットがあるが、当のエンドユーザーは、それを慣例化したサービス程度にしか、もはや思っていないからだ。
空間構成の要求は満たされても、自分たちに固有のライフスタイルがどれほど満たされるのか、機械的な提案書ではイメージを膨らませにくい。プレゼンの時点で疑問をもたれてしまったら、仮に契約してもうまくいかない。
椅子や食台といった西洋家具(=「あしらえ」と呼ぶ)を軸に「ないものはつくろう!!」と提案してきたが、今回はそのまとめをしてみたい。家具を切り口に「ライフスタイル」を再考してきたのは、それがつくり手のなかで固定化されつつあると感じたからにほかならない。もっともっと、エンドユーザーの要求と深く向き合うべきだと私は思う。そうすることで、つくり手側と住まい手側の問題点が整理でき、今後の展望も開けると考えるからだ。

 

1 つくり手側の問題点

パソコンデータによる提案書は、データ管理のメリットはあるものの、自らの提案領域を狭くし、多様化するエンドユーザーの要求に応えきれない。

 

 

■住まいづくりは既製品のパズルではない

 

「住まいをつくりたい」と依頼された時から、実は、設計事務所や工務店は「ないもの」をつくり始めている。その意識を強く持とうと、私は言いたい。
商品企画化された住宅の情報が住まいづくりの基準のようになっている現在、早期完成を求めるエンドユーザーの希望と利潤を求めるつくり手の思惑が、工期を急がせ、提案内容をじっくり検討する時間を削っている。さらに、なかばマニュアル化した提案書の作成が、「ないもの」をつくり始めているのだという意識を薄めている。また、提案者に情報の引き出しが少なく、整理もされていないため、過去データによる住宅形式をなぞったり、周囲の既存住宅を模倣したりしているケースも多すぎる。これなども、「ないもの」をつくるという意識を希薄にさせる要因だ。ものづくりに最も重要な、独自の発想と、それを検討する時間の確保ができないのであれば、やはり、多様化するエンドユーザーの要求へ対応するのは難しい。

 

■ライフスタイルが形式化してきている

 

企画住宅を主軸とする場合、ライフスタイルに沿った提案をうたっていても、実際はエンドユーザーと真に向き合わず、あらかじめ用意した規格に顧客の生活をあてはめるような住まいづくりとなる可能性がある。プランなどを規格化することは、本来、型にはまって個性に乏しいものだ。理想の顧客を絞り込むしかけは必要だが、つくり手側が単に住宅形式を固め、そこにヒットするエンドユーザーだけを相手にする姿勢では、やはり、多様化する要求に応えられない。住まいづくりのリスク回避は、結局のところ、エンドユーザーと議論し、メリットとデメリットを明確にしていくプロセスを経ることにしかない。その議論ができないエンドユーザーには、議論する内容の教育が必要となる。臆せず立ち向かうことをススメたい。現代のエンドユーザーは、一般的に、建売住宅やマンションを中心とした住体験しかない。核家族化によって、周囲の人(祖父母など)から学んだ経験も乏しい。住まいづくりについての知識も、当然不足している。その知識不足を逆手にとり、つくり手の形式を押しつけてはならないと思う。住宅のデザインと、その住宅が提案しているライフスタイル(=例えば自然志向・健康志向)とにギャップのあるケースがある。それは、住まいづくりを良く検討していないと一見してわかる。つくり手がエンドユーザーの要求を無理やりはめ込んでいるか、要求をまとめきれない場合に多い。エンドユーザーは「自分の求めていたのはこの住まいだったのか」と、疑問を持ち続けることになる。

 

■相互の情報を伝えあうことが大切

 

ものづくりは、エンドユーザーとつくり手双方の情報伝達が重要になる。具体的には、エンドユーザーの伝え方、つくり手側の理解する能力(=エンドユーザーの要求するものを理解するための形式)。このコネクトが重要となる。エンドユーザーもつくり手も、このコネクトが簡単にでき、早くつくり早く手に入れることを望んでいる。時間短縮には、いくつかのパターンを決めた現物をあらかじめつくり、選択させることが効果的―。確かにそうだと思う。

エンドユーザーも自覚していない住まいを、議論してかたちにする

 

2 エンドユーザーの問題点

 

 

■思いを語れないユーザー

 

コネクト部分を簡素化し、早くつくり早く手に入れることができれば、生産流通の効率が上がり、利潤も大きくなる。ビジネスとしての「うまみ」も出る。すると今度は、不良品などによる損害を回避するため、保証・保険の制度をつくる。
これが、現在の住まいづくりの主流だ。住まいに関わるすべて、生活全般に当てはまる。しかし今日、エンドユーザーは、こうした供給では手に入らない住まいづくりを望み始めている。本当にほしいモノ、自分たちがつくりたいモノ、大事にしていきたいモノを理解してくれるつくり手を、本気になって探し始めている。そこに応えていこうと、私は思っている。
エンドユーザーは、企業の宣伝内容が、あたかも標準であり、それを手に入れることで自身のライフスタイルができると思い込んでいたりもする。特に、30 代・40 代の層は、先ほど述べたように、住体験も未熟。自ら働き、周囲と関わり、いろいろなことを経験していくなかで生まれるリアルな生活様式ではなく、知識としてとらえた生活様式を追い求めていたりする。ましてや、情報が氾濫(はんらん)するにつれ、リアルな生活様式はどんどん見失われる。そこをエンドユーザーは認識してほしい。また、エンドユーザーは住まいへの思いを語れないといけない。

 

■体験のないユーザー

 

数10 年前までは、地鎮祭や上棟式・竣工式による住宅の公開が地域のなかで行われ、多くの人が住まいづくりを日常的に目にすることができた。しかし最近は、建設中の住宅を公開するどころか、内容や進ちょく状況を隠し、現場を公にしない風潮がある。
エンドユーザーの求める「ライフスタイル」を構築するためには、前向きな打ち合わせが必要。打ち合わせ図面・資料の作成や打ち合わせの時間は十分に確保したい。計画段階で要求をすべて提示させる手法も整える必要がある。「ライフスタイル」も含め、計画段階での共有意識構築が、住宅建設が開始されてから「施主が何をつくりたいか分からない」という問題が発生するのを解消する。
これは、大量供給型の住まいづくりによるリスクを低減させるため、つくり手がそうしてしまったものだ。そのため、親しい間柄に住宅を建てた者がいても、その様子に触れることができない。住宅建設に限らず、住まいに関わるすべてのことに、エンドユーザーは触れる機会を無くしてしまっている。体験のなさを情報で補おうとするため、現実と理想のギャップが大きくなっている。素材の質感が分からない人も多くなっている。

 

3 問題点を解決するポイント

 

 

■要求に応えてこそプロ

 

エンドユーザーの要求に対応できる・できないは、最初に結論があって、可・不可を答えられるものではない。要は、エンドユーザーといっしょに住まいをつくりあげるんだという姿勢で、提案と実行をしていくかどうかだ。そのなかで、思いや要望を実現するための条件、その際のメリット・デメリットを説明することが、私たちに必要なことだ。住まいづくりのリスクを抱えないために、設計事務所や工務店が必要最小限の提案で済まそうとするのであれば、それはエンドユーザーの要求に応えていないのと同じだ。住まいづくりのプロとは言えない。エンドユーザーからは見下されてしまい、評価は下がってしまう。エンドユーザーの要求に、前向きな姿勢で応えていくのが、プロの責務だと私は思う。

 

■既製ありきから始めない

 

住宅を提案していく時、住まいのデザイン(形態・建材・構造・設備なども含めて)やその内部空間に納められる「あしらえ」は、既製のモノから考えるのではなく、この住まいにはこんなデザイン(形態・大きさ・素材・カラーなど)のモノが必要だと検討し、提案する。その提案が受け入れられ、デザインと機能に合うものが既製のモノにあれば、それをあてはめればいい。

 

■大量生産からの転機

 

エンドユーザーの要求に応える住まいづくりの基本は、その要求を理解すること。そのためには、労力と時間が必要になる。また、住まいができるまでのプロセスは個々に異なり、詳細までのフローを規定化することはできない。そのため、提案から完成まで一貫して携わる能力が必要となる。つまり、エンドユーザーからみれば、つくり手がかける労力に対する代価の支払いまで理解することで、既製のモノを買うことでは得られない、自分たちの生活にとって真に必要なものを取得できるのではないだろうか。私たちの生活のすべてに、大量生産されるモノがあふれている。だからこそ、大量生産できない住まいづくりのプロセスに、エンド
ユーザーの要求を満たすカギがあると思う。住まいを提案するつくり手側が「ないものはつくる」を自覚し、エンドユーザーの思いに踏み込むことが求められている。